先日、不動産の売買契約を締結してから1週間後に売主が死亡してしまった案件の登記手続きの依頼がありました。
売買契約締結後1週間という早さで亡くなってしまったのは当然珍しいですが、1週間後でなくても売買契約締結後、名義変更の所有権移転登記手続きをするまでの期間は1~2ヶ月ほどが多いので、所有権移転登記手続き前に売主が死亡するというのは少ないとは思います。
というわけで、あまりないケースとは思いますが、この場合、登記手続きがどのようになるのかご説明しようと思います。
不動産売買の実務では、通常、売買契約を締結すると同時に買主が手付金を支払い、後日改めて売買代金残金全額を支払うことにより不動産の所有権が売主から買主に移転します。
売買契約締結時ではなく、後日の売買代金全額支払い時に所有権が移転するというのは、民法555条の売買の規程には反しますが、売買契約に、「所有権は売買代金全額を支払ったときに移転する」という内容の条項が記載されているためです。これを所有権移転時期の特約と言ったりします。
そして、不動産の所有権移転登記は所有権移転の事実が発生してからでないと登記申請できないため、売買代金全額が支払われ、所有権が移転した後でなければ登記申請できません。
実務では通常、売買代金全額が支払われ、所有権が移転したその日に登記申請をしています。
今回のケースでは、売買契約は締結されましたが、まだ代金全額は支払われていないため、買主に所有権が移転しておらず、その前に売主の死亡により発生した相続により、不動産の所有権は売主の相続人に移転したことになります。
この場合、売買契約は無効にはならず、売買契約を相続人が引き継ぎます。
そして相続人が売買代金全額を受領することにより、不動産の所有権が買主に移転します。
したがって、このケースでは、まず、相続を原因とする相続人への所有権移転登記申請をして、その後売買代金全額が支払われたときに買主へ所有権移転登記申請をすることになります。
本当にレアケースだとは思いますが、もし、売買代金全額支払い後に所有権移転登記をしないでおいた場合や、売買契約に所有権移転時期の特約がなく、売買契約締結時に所有権が移転したにもかかわらず、所有権移転登記申請をしないでいた場合に、売主が死亡してしまったときには、売主の相続人に所有権移転登記申請をすることなく、売主の相続人が売主に変わって買主とともに、売主から買主への所有権移転登記申請をすることができます。
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